KIMONOプロジェクトをめぐる怪

KIMONOプロジェクトをめぐる怪

2021-10-04

東京五輪・パラリンピックまでに、各国の文化や自然を表現した世界全213カ国・地域の着物と帯の制作を目指してきた「キモノプロジェクト」。この壮大なプロジェクトについては、マスコミでも報道されていましたので、よく知られていたと思います。

しかしコロナの蔓延とその影響を受けての五輪延期で、このプロジェクトについてはほとんど話題にのぼることもありませんでした。五輪延期までは西日本新聞でも報道されていましたので、世界中の着物がどのようにして披露されるのか楽しみにしていましたが、延期1年後の五輪開催も、中止を求める声がわき上がる中での、半ば強引に実施に踏み切ったこともあり、華やかな着物の披露も中止になったのだろうと思っていました。

あの美しい着物の数々を世界中の人たちにご覧いただく機会がなくなったことは残念至極ですが、このプロジェクトが生み出した美しい着物たちをオンラインを通して世界中の人々に見ていただくことはすぐにも可能です。実はわたしもひそかに、リニューアルした「絣プラス」で、この着物たちを紹介したいと考えておりました。

このプロジェクトを発案され、事業を進めておられたのが福岡県久留米市にある老舗の呉服商「蝶屋」の社長、高倉慶応さんです。蝶屋は福岡市天神にも 蝶屋 ビルがあり、福岡市内でもなじみの深い呉服店です。その社長さんが始められたプロジェクトだったのですが、コロナ、コロナ、コロナで、KIMONOプロジェクトのその後については、話題になることもありませんでした。

しかしこの着物たちはどうなっているのか、気になってネットを検索したところ、「KIMONOプロジェクト乗っ取り!」との仰天情報に遭遇しました。

SNSではかなり話題になっていたようですが、もともとNHKラジオでは全く報道しておらず、延期後は西日本新聞や他紙なども報道していないらしく、わたしはつい先ほどもまで全く知りませんでした。経緯については以下の記事等をご覧ください。

「KIMONOプロジェクト」岐路 五輪関連行事不採用 2021/7/28 産経新聞

2021年8月2日 きもの蝶屋  KIMONOプロジェクトに関するお知らせ2

2021年7月31日 きもの蝶屋 KIMONOプロジェクトに関するお知らせ

乗っ取り屋は正体はよくは分からない手嶋信道という人物だとのことですが、こんな浅ましい人間もいるのかと、ただただあきれ果てるばかり。五輪参加の国や地域の特性を象徴する着物を作ろうという、誰も考えつかないような破天荒で壮大なプロジェクトを2014年に発案、実行に移した高倉氏。2020年8月に最後のJapanの着物が完成するまでの長い歳月は、手嶋氏は全く無縁でした。

着物を熟知し、染織業界に広い人脈を持ち、巨額の資金を集めるための人脈も、老舗として経済界にも広い人脈を持つ高倉氏だからこそ可能でした。当初は資金も集まらず、高倉氏は自腹を切って活動を続けておられたはずですので、資金協力も得るようになれば、活動資金の補填をするのは当然のことだと思いますが、手嶋氏は資金集めをしたのですか。一枚200万円かかる着物を1枚でも制作したことがあるのですか。いずれもゼロのはず。

手嶋氏自らが資金集めをしなければならないような金欠プロジェクトならば、そもそも乗っ取りなど企てるはずはありませんね。着物の「き」の字も知らない、欲の皮だけ張った浅ましさを、これ以上人前にさらすのは止めるべきですよ。

こんな人物が関わったと思うだけで気分が悪くなりますが、西日本新聞に紹介されていた、高倉氏と着物の写真をご紹介いたしましよう。手嶋氏なんぞは全く無縁の世界だ!

キリバスの着物
7月18日に亡くなった久留米絣技術者の松枝哲哉さんが妻小夜子さんと作ったキリバスの着物
南アフリカの着物
拡大 最初にできた南アフリカの着物
南アフリカの帯
日本の着物
最後に完成した日本の着物

「世界は一つになれる」 213カ国・地域の着物完成 発案者の高倉さん 2020/8/11 西日本新聞

世界213カ国・地域を一つに 東京五輪彩る「キモノ」完成 2020/7/23  西日本新聞

「カメルーンの着物」披露 五輪キモノプロジェクト 2019/6/5  西日本新聞

手嶋氏にクビにされた創設メンバーのお一人、以下は佐藤飛之助氏のFcebook。佐藤氏のこの投稿の下段にある短編映画「Beyond 2020」には、KIMONOプロジェクトを支えてきた九州経済界会長や、各国の着物を担当された職人さんたちの仕事ぶりなども紹介されています。手嶋氏はこの動画にあるような人々との協同をなさったことはあるのですか。

佐藤氏の上記の映画に、完成したパラオの美しい着物(鎌倉友禅の坂井教人氏作)が展示されていましたので、ここでもあらためてご紹介させていただきます。

佐藤飛之助氏「Beyond 2020」より

「KIMONOプロジェクト」を国内外に発信したいとのわたしのひそかな願いが、乗っ取り騒動のご紹介から始めざるをえないとは全く想像もしてませんでしたが、現実の問題として、まずはこの禍々しい事件への批判なしには「KIMONOプロジェクト」 のご紹介は不可能ですので、乗っ取り批判先行となってしまいました。残念です。

なお、わたしのSNSにも不可解な現象が発生しています。「絣プラス」のSNSをめぐる問題に追記でご報告しております。